・・・陛下に仁慈の御心がなかったか。御愛憎があったか。断じて然ではない――たしかに輔弼の責である。もし陛下の御身近く忠義こうこつの臣があって、陛下の赤子に差異はない、なにとぞ二十四名の者ども、罪の浅きも深きも一同に御宥し下されて、反省改悟の機会を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・そんな曖昧な動物かも知れないものは勿論仁慈に富めるビジテリアン諸氏は食べたり殺したりしないだろう。ところがどうだ諸君諸君が一寸菜っ葉へ酢をかけてたべる、そのとき諸君の胃袋に入って死んでしまうバクテリアの数は百億や二百億じゃ利けゃしない。諸君・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・自分等は選ばれたる者で、特別な精神高揚の努力なしで、仁慈に達せられると思って居る。自分の金を出して一つの教会を建てる騒々しい成上りものは、そう云うことで社会の尊敬を得ると思うばかりでなく、彼の奇妙な小さい霊に、彼は神を喜ばせること、人類に貢・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・それは賢明な、道義的性格のしっかりとした、仁慈に富んだ人物である。そこには古来の正直・慈悲・智慧の理想が有力に働いているが、特に「人を見る明」についての力説が目立っているように思われる。うぬぼれや虚栄心や猜みなどのような私心を去らなくては、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫