・・・さて、人間がいろいろの器械を作って、それを身体の代用物とする傾向がだんだんに増して来る。そうしてそれらの器械のリズムがだんだん早くなって来ると、われわれの「秒」は次第に短くなって行くかもしれない。それで、もしも現在の秒で測った人間の寿命が不・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ ヴェランダの上にのせた花瓶代用の小甕に「ぎぼし」の花を生けておいた。そのそばで新聞を読んでいると大きな虻が一匹飛んで来てこの花の中へもぐり込む。そのときに始めて気のついたことは、この花のおしべが釣り針のように彎曲してその葯を花の奥のほ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・そうして牛乳に入れるための砂糖の壺から随時に歯みがきブラシの柄などでしゃくい出しては生の砂糖をなめて菓子の代用にしたものである。試験前などには別して砂糖の消費が多かったようである。月日がめぐって三十二歳の春ドイツに留学するまでの間におけるコ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・しあわせな事には世の中では論理的の証明はわりに要求されないで、オーソリティの証言が代用されそのおかげで物事が渋滞なく進捗するのであろう。 自画像をかきながら思うようにかけない苦しまぎれに、ずいぶんいろんな事を考えたものである。それを・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・そうして木立ちの代わりに安価な八つ手や丁子のようなものを垣根のすそに植え、それを遠い地平線を限る常緑樹林の代用として冬枯れの荒涼を緩和するほかはなかった。しあわせに近所じゅういったいに樹木が多いので、それが背景になって樹木の緑にはそれほど飢・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・そういうのは蓄音機でも代用されはしないかという問題が起こる。それからまた黒板に文字や絵をかいたりして説明する必要のある講義でも、もし蓄音機と活動写真との連結が早晩もう少し完成すれば、それで代理をさせれば教師は宅で寝ているかあるいは研究室で勉・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・しかし今に航空がもっともっと発達して、空中の各層に縦横の航空路が交錯するようになればもはや平面的な図では間に合わなくなって立体的なあるいは少なくも立体的に代用される特殊な地図が必要になるかもしれない。 空中ばかりでなく人間の交通範囲は地・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・この門番は旧来足軽の職分たりしを、要路の者の考に、足軽は煩務にして徒士は無事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明にして下士の首を押えんとの考を交え、その実はこれがため費用を省くにもあらず、武備を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・実にはっきり、燃料となり、代用食事の手間のかかる支度となって女性の二十四時間にくいこんで来ている。しかも、十年前にくらべると、一日のうちに自由時間を一時間半しかもてなくなって来ているこれらの主婦が目にふれ耳にきくのは、アメリカの電化された台・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・家庭の主婦の心労や骨折や或は無智が、職工さんのお弁当の量は多くて質の足りない組合わせを結果して来てもいるだろうし、代用食と云えばうどんで子供は食慾もなくしている始末にもなっていよう。何をたべたか、何がたべたいかという結果として出たところで調・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
出典:青空文庫