・・・もう一口説明しますと、西洋の開化は行雲流水のごとく自然に働いているが、御維新後外国と交渉をつけた以後の日本の開化は大分勝手が違います。もちろんどこの国だって隣づき合がある以上はその影響を受けるのがもちろんの事だから吾日本といえども昔からそう・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ カント以後、主観的自己の立場を否定して、純なる論理的立場に立った人は、ヘーゲルである。フィヒテが「自己が自己である」Ich-Ich という立場から出立したのに反して、ヘーゲルは「有」から出立した。ヘーゲルの哲学は、自己自身によってあり・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・我輩固より記者の誠意を非難するには非ざれども、女大学の著述以後二百余年の今日に於て、人智の進歩、時勢の変遷を視察し、既往の事実に徴して将来の幸福を求めんとするときは、如何にしても古人の説に服従するを得ず、敢て反対を試みる所以なり。抑も在昔封・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・〔『日本』明治三十二年三月二十六日〕『古今集』以後今日に至るまでの撰集、家集を見るに、いずれも四季の歌は集中の最要部分を占めて、少くも三分の一、多きは四分の三を占むるものさえあり。これに反して四季の歌少く、雑の歌の著く多きを『万葉集・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・これとても最後涅槃経中には今より以後汝等仏弟子の肉を食うことを許されずとされている。その五種浄肉とても前論士の云われた如き余り残忍なる行為によらずしてというごとき簡単なるものではない。仏教中の様々の食制に関する考は他に誰か述べられる予定があ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・この愚かなことが一九三三年から以後の日本にはあったのです。やっつけられるのは、左翼の者ばかりだ。「あれは左翼だから」、「戦争反対者だから」と、なるたけ遠のいて自分を権力に屈従させたおびただしい人々が、こんにちどれほど特別にいい生活をしている・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・のちにせっかく当番をゆるされた思召しにそむいたと心づいてお暇を願ったが、光尚は「そりゃ臆病ではない、以後はも少し気をつけるがよいぞ」と言って、そのまま勤めさせた。この近習は光尚の亡くなったとき殉死した。 阿部一族の死骸は井出の口に引き出・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そして、妻が反対したのに拘らず、彼は妻の実家を立て直して翌年死んだ。以後勘次の家は何事につけても秋三の家の上に立った。で、何物にも屈伏することを好まない青年の自尊心を感じることの出来る者達程、此の日の二人の乱闘の原因も、所詮酒の上の、「箸で・・・ 横光利一 「南北」
・・・ところがいよいよ子爵夫人の格式をお授けになるという間際、まだ乳房にすがってる赤子を「きょうよりは手放して以後親子の縁はなきものにせい」という厳敷お掛合があって涙ながらにお請をなさってからは今の通り、やん事なき方々と居並ぶ御身分とおなりなさっ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・しかし大和絵以後の繊美な様式のみが伝統として現代に生かされ、平安期以前の雄大な様式がほとんど顧みられていないことは、日本画を真に偉大な未来へ導くゆえんではあるまいと思う。黄不動の線を凝視せよ。赤不動の色を凝視せよ。ここに日本画を現在の浪漫主・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫