・・・ひどい目に会わすのはいつも男、会わされるのはいつも女、――そうよりほかに考えない。その癖ほんとうは女のために、始終男が悩まされている。三十番神を御覧なさい。わたしばかり悪ものにしていたでしょう。 小野の小町 神仏の悪口はおよしなさい。・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・しかるに豹一は半分逃足だった。会わす顔もないと思っていたところを偶然出くわしたので、まごまごしていた。いきなり逃げだそうとしたその足へ、とたんに自尊心が蛇のように頭をあげてきて、からみついた。あんな恥かしいところを見られたのだから名誉を回復・・・ 織田作之助 「雨」
・・・を尋ね嵐雪を訪い素堂を倡い鬼貫に伴う、日々この四老に会してわずかに市城名利の域を離れ林園に遊び山水にうたげし酒を酌みて談笑し句を得ることはもっぱら不用意を貴ぶ、かくのごとくすること日々ある日また四老に会す、幽賞雅懐はじめのごとし、眼を閉じて・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫