・・・これに似寄りの定義は、あっても役に立たぬことはない。が、役に立つと同時に害をなす事も明かなんだから、開化の定義と云うものも、なるべくはそう云う不都合を含んでいないように致したいのが私の希望であります。が、そうするとボンヤリして来る。恨むらく・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ こう云う処に居ると、私と似寄りの年頃の話し相手はまるで出来ない。言葉の違う故か、きまりを悪がって、どんなに私が打ちとけても口一つきかないのである。それにまた、この村には割合に、娘や若い男の子が少い様に見える。中学校に来るものは大抵他処・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・蓮の花の開く時の音はポンという言葉で形容されているが、どうもそれとは似寄りのない、クイというふうな鋭い音である。何だろうとその音のする方をうかがって見たりなどしながら、また目前の蕾に目を返すと、驚いたことには、もう二ひら三ひら花弁が開いてい・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫