・・・そうして月々十一円ずつ郷里からもらっている学費のうちからひどい工面をして定価九円のヴァイオリンを買うに至るまでのいきさつがあったのであるが、これは先生に関係のない余談であるからここには略する。とにかく自分がこの楽器をいじるようになったそもそ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ これは余談ではあるが、よく考えてみると、いわゆる人生の行路においても存外この電車の問題とよく似た問題が多いように思われて来る。そういう場合に、やはりどうでも最初の満員電車に乗ろうという流儀の人と、少し待っていて次の車を待ち合わせよ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・これは全くの余談であるが、少なくもそのころ、私は音楽が好きであるにかかわらず、音楽に関係している人々からはよい印象を受けなかった。音楽家からも楽器屋の店員からも、また音楽好きの学生からも一つとしてよい印象を受けなかった。 そのころ音楽会・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・ 余談ではあるが、先日田舎で農夫の着ている簔を見て、その機構の巧妙と性能の優秀なことに今さらに感心した。これも元はシナあたりから伝来したものかもしれないが、日本の風土に適合したために土着したものであろう。空気の流通がよくてしかも雨やあら・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 余談ではあるが、二十年ほど前にアメリカの役者が来て、たしか歌舞伎座であったかと思うが、「リップ・ヴァン・ウィンクル」の芝居をした事がある。山の中でリップ・ヴァン・ウィンクルが元気よく自分の名を叫ぶと、反響がおおぜいの声として「・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 余談はしばらくおいて、AB、AC、AD……の関係、なお念のために比較の主客を置換してBA、CA、DA……の関係の濃度に対するだいたいの比較的の数値を定める事ができたとすれば、少なくもここにABという一つの「鎖の輪」が、従来よりはやや科・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ これは余談である。わたくしは折角西瓜を人から饋られて、何故こまったかを語るべきはずであったのだ。わたくしが口にすることを好まなければ、下女に与えてもよいはずである。然るにわたくしの家には、折々下女さえいない時がある。下女がいなければ、・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・話は余談に入るが、独逸の哲学者が概念を作って定義を作ったのであります。しかし巡査の概念として白い服を着てサーベルをさしているときめると一面には巡査が和服で兵児帯のこともあるから概念できめてしまうと窮屈になる。定義できめてしまっては世の中の事・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ いささか余談にわたるけれども、ディケンズは、人生の底にふれた作家、不幸の底を知っている心の暖い民衆の芸術家といわれ、辻に立って本をよめぬ人々に小説を朗読したほとんどただ一人の作家なのであるが、私が彼に対してもつもっとも大きい不満の一つ・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・(此は余談ではございますが、当時大統領だったルーズベルトを中心にして、動いた各国王、特に露、独の心持は人間の生活の一断面として面白うございます。非常に面白うございます。不幸な露国皇帝が彼の死を死んだ運命の尖端 其から御飯を食べ、又少し本・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫