・・・政府はただちに罹災者に対してお見舞いを差上げている筈だし、公債や保険やらをも簡単にお金にかえてあげているようだ。それに、全く文字どおりの着のみ着のままという罹災者は一人も無く、まずたいていは荷物の四個や五個はどこかに疎開させていて、当分の衣・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・しかもわれらが斃れる時、われらの烟突が西洋の烟突の如く盛んな烟りを吐き、われらの汽車が西洋の汽車の如く広い鉄軌を走り、われらの資本が公債となって西洋に流用せられ、われらの研究と発明と精神事業が畏敬を以て西洋に迎えらるるや否やは、どう己惚れて・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・その有様は、心身に働なき孤児・寡婦が、遺産の公債証書に衣食して、毎年少々ずつの金を余ますものに等し。天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・徴収した金は大衆がその中の一割とすこししか持っていない戦時公債を償還して、大企業銀行などをうるおす予定になっている。二万円の区切りは今日の円で二千円だといえばきわめて広汎な家庭が包括されて来るのである。 実にわかりやすく懐に突込まれる手・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・銀行、大企業が、9/10を所有している戦時公債を、財産税でとりあげた人民の金で償還しようとしている政府。そういう政府が、財閥的私的権力でないと云うものは恐らくないであろう。目前の食糧問題という全くの公的課題を、忍耐ふかき日本の人民は、日に日・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・工業化公債募集のビラ。会議の布告。国防飛行協会クラブ主催屋外音楽会の広告ベンチがいくつも壁にそって並んでいる。 赤い布で頭を包んだ婦人郵便配達が、ベンチの上へパンパンに書附類の入った黒鞄をひろげいそがしそうに何か探している。太い脚を黒い・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・失業救済事業公債が二千七百八十万円と内定し、上野ではプロレタリア美術展がひらかれてる。〔一九三〇年十二月〕 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・彼は金の融通の切迫した必要から銀行の組織に精通し、パリじゅうの高利貸と三百代言を知り、暫くではあるが公債のためにサン・ラザールの監獄へぶちこまれた。再び狼の爪につかまれぬためには、変名して手紙を受とったり、住居を晦したり、辛酸をなめた。母親・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・然し現代風俗として見るとき、これらの現象はこれだけで切り離せぬもので、百円迄のボーナスも一割は公債で。オール・スフ。眼鏡のつるに到る金の申告。体位向上徒歩奨励、幼児保健の問題、戦没者の母子寮の設立などと全く背までくっついていて離れられない双・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・奥さんは手元にあるだけの株券、公債、銀行通帳、宝石の入った装身具類などを悉く簀子の処へ持ち出し、「これだけ財産があるんですから、本当に、御迷惑はかけませんよ、――だからどうぞ今日から親類になって下さい、……ね、私達そりゃあ淋しく暮してい・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫