・・・ただ僕等の友だちの一人、――Kと云う医科の生徒だけはいつも僕等を冷評していた。「そんな議論にむきになっているよりも僕と一しょに洲崎へでも来いよ。」 Kは僕等を見比べながら、にやにや笑ってこう言ったりした。僕は勿論内心では洲崎へでも何・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・といったのは、よく這般のいわゆる文明を冷評しつくして、ほとんど余地を残さぬ。 予は今ここに文明の意義と特質を論議せむとする者ではないが、もし叙上のごとき状態をもって真の文明と称するものとすれば、すべての人の誇りとするその「文明」なるもの・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・したがって、どう生きるかということ、その生のためにどう生を終ったかということについては、傍観的であり得ないし冷評に納ってもいられない。インテリゲンツィアにより目ざめた社会人としての誇りがあるならば、それは何だろう。俗見が当然な行為と認めて通・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫