・・・頗る人情に通じたる処置と言う可し。其両親に遠ざかるは即ち之に離れざるの法にして、我輩の飽くまでも賛成する所なれども、或は家の貧富その他の事情に由て別居すること能わざる場合もある可きなれば、仮令い同居しても老少両夫婦の間は相互に干渉することな・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・然りといえども、智愚相対してその間に不和あれば、智者まず他を容れてこれを処置せざるべからず。 ゆえに真の愚民に対しては、政府まずその愚を容れてこの水掛論の処置に任せざるべからずといえども、本編の主として論ずる学者にいたりては、すなわちこ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・故に世上有志の士君子が、その郷里の事態を憂てこれが処置を工夫するときに当り、この小冊子もまた、或は考案の一助たるべし。一、旧藩地に私立の学校を設るは余輩の多年企望するところにして、すでに中津にも旧知事の分禄と旧官員の周旋とによりて一校を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・しかれども球戯は死物にあらず防者にありてはただ敵を除外ならしむるを唯一の目的とするをもってこれがためには各人皆臨機応変の処置を取るを肝要とす。防者は皆打者の球は常に自己の前に落ち来る者と覚悟せざるべからず。基人は常に自己に向って球を投げらる・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・如何にも不親切な、臨機の処置を知らぬ検疫官だと思うて少しは恨んで見た。しかし今は平和の時でないのだから余り卑怯な事はいうまい位の覚悟は初めからして居る。そう思うて自分はあきらめた。けれどもつくづくと考えて見るとまた思い乱れてくる。平生の志の・・・ 正岡子規 「病」
・・・有島さんの今度の処置も或は其力の前に自然であったのではなかろうかと考えます。 この死によって私は、殊に近来夫婦関係というような事に就いていろいろの事を考えて来ましたが、私共の機械的な日常生活の中に、こんな深遠な境地が係らわっていることか・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・ アメリカやイギリスその他の国々で、看護婦の私的生活は、職務からすっかりきりはなされていて、例えば結婚して妊娠すれば、母となるという仕事は、看護婦という職業の面からきりはなされて、その人個人の処置にゆだねられます。モスクワの病院では、労・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・まで民衆の精神にほどこしていた目隠しの布が落ちきらぬうち、せいぜい開かれた民衆の視線がまだ事象の一部分しか瞥見していないうち、なんとかして自身の足場を他にうつし、あるいは片目だけ開いた人間の大群衆を、処置に便宜な荒野の方へ導こうと、意識して・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・一旦常に変った処置があると、誰の捌きかという詮議が起る。当主のお覚えめでたく、お側去らずに勤めている大目附役に、林外記というものがある。小才覚があるので、若殿様時代のお伽には相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・役向きの事はすべて同役の稲垣に相談して、城代に伺って処置するのであった。それであるから、桂屋太郎兵衛の公事について、前役の申し継ぎを受けてから、それを重要事件として気にかけていて、ようよう処刑の手続きが済んだのを重荷をおろしたように思ってい・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫