・・・――そうすると、見失った友の一羽が、怪訝な様子で、チチと鳴き鳴き、其処らを覗くが、その笠木のちょっとした出張りの咽に、頭が附着いているのだから、どっちを覗いても、上からでは目に附かない。チチッ、チチッと少時捜して、パッと枇杷の樹へ飛んで帰る・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・「貴下こそ、前へいらしってお待ち下されば可うござんすのに、出張りにいらしって、沫が冷いではありませんか。」 さっさと先へ行けではない。待ってくれれば、と云う、その待つのはどこか、約束も何もしないが、もうこうなっては、度胸が据って、・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・雪がせわしく降り出したので出張りを片付けている最後の本屋へ、先刻値を聞いて止した古雑誌を今度はどうしても買おうと決心して自分は入って行った。とっつきの店のそれもとっつきに値を聞いた古雑誌、それが結局は最後の選択になったかと思うと馬鹿気た気に・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
出典:青空文庫