・・・ 兵卒は、初年兵の時、財布に持っている金額と、金銭出納簿の帳尻とが合っているかどうか、寝台の前に立たせられて、班の上等兵から調べられた経験を持っていた。金額と帳尻とが合っていないと、胸ぐらを掴まれ、ゆすぶられ、油を搾られた。誰れかゞ金を・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・極度の場合においては、国庫の出納を毫も増減せずして、実際の事は挙行すべし。 その法、他なし、文部省、工部省の学校を分離して御有となすときは、本省においては、従来学校に給したる定額を省くべきは当然の算数にして、この定額金は必ず大蔵省に帰す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・金穀の会計より掃除・取次にいたるまで、生徒、読書のかたわらにこれを勤め、教授の権も出納の権も、読書社中の一手にこれをとるがゆえに、社中おのおの自家の思をなし、おのおの自からその裨益を謀て、会計に心を用うること深切なり。その得、二なり。一・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・金銀の出納は毎区の年寄にてこれを司り、その総括をなす者は総年寄にて、一切官員のかかわるところにあらず。 前条の如く、毎半年各戸に一歩の金を出ださしむるは官の命なれども、この金を用るにいたりては、その権まったく年寄の手にあり。この法はウェ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・一 尚お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の出納を帳簿に記して勘定の出来るまでは随分易きことに非ず。父母の心して教う可き所なり。又台所の世帯万端、固より女子の知る・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・簡便に行わるべき書籍の出納場が、あんなに高い、絵にある閻魔の大机のようなのなどは寧ろ愉快な滑稽だ。閲覧室内を監督するようにと云う意味もあるのだろうが。 この書籍館書目について、私の面白いと思ったことは、編輯ぶり――書籍整理の方法が、ちっ・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・しかし本来の性質上その英国に於てさえ慈善心の発動にはいかに技巧的な絶間ない刺戟が必要かと云う例をレッツ出版の事務用出納簿が明かに示した。そこで彼らは五十余頁にわたる類別商店会案内の後でいきなり痛切な活字の叫びに捉えられるだろう。 ――助・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・金銭出納細目帳のようにまで書かれている。 徳川の政府はたびたび贅沢禁止の命令を発したが、命令は実行されなかった。それは当然であったと思う。社会的に最も身分の低いものとされ、斬り捨て御免の立場に置かれ、しかも経済の中枢では権力者の咽喉元を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・自分の扶持米で立ててゆく暮らしは、おりおり足らぬことがあるにしても、たいてい出納が合っている。手いっぱいの生活である。しかるにそこに満足を覚えたことはほとんどない。常は幸いとも不幸とも感ぜずに過ごしている。しかし心の奥には、こうして暮らして・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫