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・・・そのうちに肉屋はほうちょうをとぎおえて、刃先をためすために、そばの大きな肉のはしの、ざらざらになったところを、少しばかり切り落しました。そして、「ほら。」と言って、やせ犬になげてやりました。すると犬は、それが地びたへおちないうちに、ぴょ・・・
鈴木三重吉
「やどなし犬」
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・・・薄い屋根を透して鎌の刃先は牙の如く光った。彼は蚊帳へもぐってごろりと横になって絶望的に唸った。文造は止めず鍬を振って居る。其暑い頂点を過ぎて日が稍斜になりかけた頃、俗に三把稲と称する西北の空から怪獣の頭の如き黒雲がむらむらと村の林の極から突・・・
長塚節
「太十と其犬」