・・・こう例を挙げれば際限がないから好加減に切り上げます。実は開化の定義を下す御約束をしてしゃべっていたところがいつの間にか開化はそっち退けになってむずかしい定義論に迷い込んではなはだ恐縮です。がこのくらい注意をした上でさて開化とは何者だと纏めて・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・はそれで切り上げて、あとはまとまらない四方山の話に夜をふかした。せっかくだから二、三日逗留してゆっくりしていらっしゃいと勧めてくれるのを断わって、やはりあくる日立つことにしたので、重吉はそんならお疲れでしょう、早くお休みなさいと挨拶して帰っ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・らの間に規律と云うものが無かったならば、――彼らのうちには今日は頭が痛いから休むというものもできようし、朝の七時からは厭だからおれは午後から出るとわがままを云うものもできようし、あるいは今日は少し早く切り上げて寄席へ行くとか、あるいは今日は・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ように、十分面白い講演をして帰りたいのは山々であるけれども、しかしあまり大勢お出になったから――と云って、けっしてつまらぬ演説をわざわざしようなどという悪意は毛頭無いのですけれども、まあなるべく短かく切上げる事にして、そうして――まだ後にも・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・例を省くと詰らないものになりますが、早く済みますから、詰らなくして早く切り上げてしまおうと思う。 それから、法則というものは社会的にも道徳的にもまた法律的にもあるが、最も劇しいのは軍隊である。芸術にでも総てそういうような一種の法則という・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・この点についても、もっと詳しく申し上げたいのですけれども時間がないからこのくらいにして切り上げておきます。ただもう一つご注意までに申し上げておきたいのは、国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える事です。元・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ もうこれ以上飲めないと思って、バーを切り上げて来たんだから、銀銅貨取り混ぜて七八十銭もあっただろう。「うん、余る位だ。ホラ電車賃だ」 そこで私は、十銭銀貨一つだけ残して、すっかり捲き上げられた。「どうだい、行くかい」蛞蝓は・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 安岡は前夜の睡眠不足でひどく疲れていたので、自習をいいかげんに切り上げて早く床に入った。そして、妙な素振りをする深谷の来る前に眠っちまおうと決心した。「でなけりゃ、とてもやり切れない」 と思った。だが、そう思えば思うほど、なお・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対して恰も格式りきみの長座を為さず、昔年のりきみは家を護り面目を保つの楯となり、今日のりきみは身を損じ愚弄を招くの媒たるを知り、早々にその座を切上げて不体裁の跡を収め、下士もまた上士・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ イエニーは十四ヵ月でパリ生活を切り上げなければならなくなった。金がちっとも無かった。家賃さえなかった。エンゲルスが骨を折って友人の間から金を集めた。生れて半年ほどの赤児をつれて、マルクス夫妻はベルギーの首府ブルッセルに移った。一八四五・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫