・・・『そいつは惜しかった十六、七で別品でモデルになりそうだと来ると小説だッたッけ、』と言って『ウフフフ』と笑った。この先生に不似合いなことを時々言ってそうして自分でこんなふうな笑いかたをするのがこの人の癖の一つである。『そううまくは行か・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・リッシュに這入ったとき、大きな帽子を被った別品さんが、おれの事を「あなたロシアの侯爵でしょう」と云って、「あなたにお目に掛かった記念にしますから、二十マルクを一つ下さいな」と云ったっけ。 ホテルに帰ったのは、午前六時であった。自動車のテ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・そもそもその花柳の談を喋々喃々するは、何を談じ何を笑い、何を問い何を答うるや。別品といい色男といい、愉快といい失策というが如き、様々の怪語醜言を交え用いて、いかなる談話を成すや。酔狂喧嘩の殺風景なる、固より厭うべしといえども、花柳談の陰醜な・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・「クロポトキンは別品の娘を持っているというじゃないか。」「そうです。大相世間で同情している女のようですね」と、木村は答えて、また黙ってしまった。 山田が何か思い出したという様子で云った。「こん度の連中は死刑になりたがっているから、死・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・「はいはい。別品さんを上げるように言うて遣ります。」「いや、下女に別品は困る。さようなら。」 石田はそれから帰掛に隣へ寄って、薄井の爺さんに、下女の若いのが来るから、どうぞお前さんの処の下女を夜だけ泊りに来させて下さいと頼んだ。・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・「なかなか別品だったわねえ。それに肌が好くって。」 この時通訳あがりが突然大声をして云った。「その凄い話と云うのを、僕は聞きたいなあ。」「よせ」と、小川は鋭く通訳あがりを睨んだ。主人はどっしりした体で、胡坐を掻いて、ちびりちびり酒を・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・花子は別品ではないのである。日本の女優だと云って、或時忽然ヨオロッパの都会に現れた。そんな女優が日本にいたかどうだか、日本人には知ったものはない。久保田も勿論知らないのである。しかもそれが別品でない。お三どんのようだと云っては、可哀そうであ・・・ 森鴎外 「花子」
・・・また「あまり別品でなあ」とも言った。しかしお佐代さんを嫌っているのでないことは、平生からわかっている。多分父は吊合いを考えて、年がいっていて、器量の十人並みなお豊さんをと望んだのであろう。それに若くて美しいお佐代さんが来れば、不足はあるまい・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・兎に角若い婦人が傍にいるのである。別品かもしれない。この退屈な待つ間を面白く過ごすような事でもあれば好いと反謀気も出て来るのである。 フィンクは思わず八の字髭をひねって、親切らしい風をして暗い隅の方へ向いた。「奥さん。あなたもやはり・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫