・・・その辺も道太が十三四のころに住まったことのあるところで、川添いの閑静なところにあったそのころの家も、今はある料亭の別宅になっていたけれど、築地の外まで枝を蔓らしている三抱えもあるような梅の老木は、昔と少しも変わらなかった。 お京はちょう・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・是れより以上醜行の稍や念入にして陰気なるは、召使又は側室など称し、自家の内に妾を飼うて厚かましくも妻と雑居せしむるか、又は別宅を設けて之を養い一夫数妾得々自から居る者あり。正しく五母鶏、二母じぼていの実を演ずるものにして、之を評して獣行と言・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・他人の同居して不和なる者、別宅して相親しむべし。他人のみならず、親子兄弟といえども、二、三の夫婦が一家に眠食して、よくその親愛をまっとうしたるの例は、世間にはなはだ稀なり。 今政府と人民とは他人の間柄なり。未だ遠ざからずして、まず相近づ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・自然の起伏を利用した規則正しい区画、東と西の大通りを縁どる並木、自動車路など、比較的落付いた趣があったので、知名な俳優や物持ちが別宅などを建てた。石川は、そのようにしてだんだん××町が開けて行く草分から町の入口――よく小さい別荘地の入口に見・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫