・・・「予を秀才といふはあたらず、よく刻苦すといふはあたれり」といった頼山陽の言は彼のすなおな告白であったに相違ない。 つとめて書を読み、しかもそれが他人の生と労作からの所産であって、自分のそれは別になければならぬことを自覚し、他人の生に・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・一、でき得る限り刻苦勉強すること。これはどんな天才にも必要なことである。努力せぬ者は終にはきっと負ける。初め鈍いように見える者が刻苦して大成した人は多いが、初め才能があってそれを恃んで刻苦しないために駄目になった者も多い・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・ 禹に至つては刻苦勉勵、大洪水を治し禹域を定めたるもの、これ地に關する事蹟なり。禹の事業の特性は地に關する點にあり。 これらの點より推さばこの傳説作者は、天地人三才の思想を背景にして、之を創作せるものなるべく、漢人殊に儒教が天子に望・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・されど、之等は要するに皆かれの末技にして、真に欽慕すべきは、かれの天稟の楽才と、刻苦精進して夙く鬱然一家をなし、世の名利をよそにその志す道に悠々自適せし生涯とに他ならぬ。かれの手さぐりにて自記した日記は、それらの事情を、あますところ無く我ら・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・しかしともかくもこういう試みは未来の連句のためにわれわれの努力し刻苦して研究的に遂行してみる価値のある試みである。たとえ現在の微力なわれわれの試みは当然失敗に終わることが明らかであるまでも、われわれはみじめな醜骸をさらして塹壕の埋め草になる・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・からで、羊頭を掲げて狗肉を売る所なら、まア、豚の肉ぐらいにして、人間の口に入れられるものを作え度い、という極く小心な「正直」から刻苦するようになったんだ。翻訳になると、もう一倍輪をかけて斯ういう苦労がある。――その時はツルゲーネフに非常な尊・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・今日はさらに一歩すすめて、この複雑な諸条件はそのままで、いっそうの刻苦精励に向ってふるい立たされているのである。生活の新しい必要は、女に新たなたくましさを与えるであろう。新たな社会的な自覚をも与え、人間としての鍛錬をも加えるだろう。しかしそ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・の感じる、我に非ず、他人に非ざる愛に到達するまで、刻苦に刻苦することが目下の大切な、恐らく一生を通じての行なのです。 あらゆるものの本体を見得る叡智と渾一に成った愛こそ願わしいものです。 自分は、愛の深化ということは、最も箇性的な、・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・五十七歳の時のケーテの自画像には、しずかな老婦人の顔立のうちに、刻苦堅忍の表情と憐憫の表情と、何かを待ちかねているような思いが湛えられている。 晩年のケーテの作品のあるものには、シムボリックな手法がよみがえっている。が、そこには初期の作・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
どんなひとも、贅沢がいいことだと思っていないし、この数年間のように多数の人々が刻苦して暮しているのに、一部の人ばかりがますます金銭を湯水のようにつかう有様を目撃していれば、いい気持のしないのは自然だと思う。今度の贅沢品禁止・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
出典:青空文庫