・・・殊に森は留学時代に日本語廃止論を提唱したほど青木よりも一層徹底して、剛毅果断の気象に富んでいた。 青木は外国婦人を娶ったが、森は明治の初め海外留学の先駈をした日本婦人と結婚した。式を挙げるに福沢先生を証人に立てて外国風に契約を交換す結婚・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ドンな場合でも決して屈することのないプロレタリアの剛毅さからくる朗かさが、その言葉のうちに含まさっているわけだ。然し、そればかしでなしに、俺だちにとっては本来の意味――いわばブルジョワ的な「休息」という意味でも、此処は別荘であるということを・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ましてや、温和なチェホフが、壮年のゴーリキイを除名したアカデミーにたいして、自分がアカデミシャンであることを恥じると抗議したような、温和にして剛毅な文学の精神は、日本の当時に存在しなかったのである。 十三年代に明瞭にあらわれた、この文化・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・作家は、私というものを改めてつかまえなおして、その門から今日の歴史の複雑多様な波流の中へ、沈着剛毅に現われ出なければならないのではなかろうか。高速度カメラが夢中で疾走する人体の腿の筋肉をも見せる力をもっているように、こうして動きつつ、動かし・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・彼女の剛毅、機智、大衆から与えられている輿論の支持を全面的に用いて、ナイチンゲールの官僚主義とのたたかいはつづけられていたが、シドニー・ハーバートが病いに倒れるとともに政治的な敗北が、役所方面での彼女の計画をほとんど旧態に戻してしまった。苦・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・勇気といい剛毅というもすべてこの執着を離れたる現象である。肉体! 肉体の存在が何である。物質の執着は霊の権威を無視し肉の欲の前に卑しき屈従をなす。米と肉と野菜とで養う肉体はこの尊ぶべき心霊を欠く時一疋の豕に過ぎない、野を行く牛の兄弟である。・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫