・・・これも効力がなかった。血は冷たい叩きの上へ振り落とされた。 私は誰も来ないのに、そういつまでも、血の出る足を振り廻している訳にも行かなかった。止むなく足を引っ込めた。そして傷口を水で洗った。溝の中にいる虫のような、白い神経が見えた。骨も・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・教育の効の緩慢にして、ひとたびこれに浸潤するときは、その効力の久しきに持続すること明に見るべし。 政事の性質は活溌にして教育の性質は緩慢なりとの事実は、前論をもってすでに分明ならん。然らばすなわち、この活溌なるものと緩慢なるものと相・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・棺の中で生きかえって手足を動かそうとした所で最早何の効力もない。其処で棺の中で生きかやった時に直ぐに棺から這い出られるという様な仕組みにしたいという考えも起こる。 棺の窮屈なのは仕方が無いとした所で、其棺をどういう工合に葬むられたのが一・・・ 正岡子規 「死後」
・・・このわなの絵は外国でも日本でも種苗目録のおしまいあたりにはきっとついていて、然も効力もあるというのにどう云うわけか一寸不思議にも思いました。 この時校長さんは、かくしから時計を出して一寸見ました。そこで私は、これはもうだんだん時間がたつ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 栄蔵が、畢生の弁舌を振っても、山岸の方へは何の効力もなかった。 あまり話がはかどらないので、仕舞いにはお金の云った事がほんとうであったのかもしれないと思う様になったりした。 途方に暮れて、馬場へも、度々栄蔵は出かけて行って二人・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 幸運の手紙は、従って人々がともかく幸福らしいものをたっぷりもって暮している世情の中では、効力を余り発揮しない。幸福や幸運というものがいかにもぼんやり遠くにあって、今日の現実とは反対のものとして心に描かれているような社会の条件のなかでこ・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・ですから、もっと研究して、私たちの本当の代表者を議会に送り、もっとよく、もっと具体的な、実際の効力のある憲法につくりあげなければならないのであります。 私は作家であるのに、政治の話をするのは、なんとなく変だとお思いになるかもしれませ・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・何百、何千、何万の娘たちの給料の半額を会社で預って、預った金を一ヵ月間会社のために流用するなら、その金融的効力はどのくらいだろう。六年制の国民学校を出ただけの、子供のような女工さんには、こまかい話はしても判らない。会社は若い娘の夢をもたせる・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ H町の生活は、自分の気位、趣味、余裕ある心持等を養うに、偉大な効力を持って居た。 人間として持つべきだけの威厳、快楽、美に敏感な感情を授けられたことは、生涯、生活を、蕪雑なものにし得ない為に、自分を益して居る。 けれども、彼の・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ そして、この非常に要求されていた一転機として、彼女の女学校入学が、殆ど予想外の効力をもったのであった。 どんなに陰気になっていても、彼女の年の持つ単純さが、新らしく彼女を取り繞った周囲に対して、驚くべき好奇心、探究心を誘い出し、こ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫