・・・また一方原始的の食人種が敵人をほふってその屍の前に勇躍するグロテスクな光景とのある関係も示唆される。空想の翼はさらに自分を駆って人間に共通な舞踊のインスティンクトの起原という事までもこの猫の足踏みによって与えられたヒントの光で解釈されそうな・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・しかし歴史はいまだかつて、如何なる人の伝記についても、殷々たる鐘の声が奮闘勇躍の気勢を揚げさせたことを説いていない。時勢の変転して行く不可解の力は、天変地妖の力にも優っている。仏教の形式と、仏僧の生活とは既に変じて、芭蕉やハアン等が仏寺の鐘・・・ 永井荷風 「鐘の声」
・・・を提唱し、勇躍して満州へ行く悲喜劇的な姿も、結局はこれまでそれ程に作家の生活には世間人並のつきあいがなかったと言うことであり、それ程政治家等の文学に就いての関心が欠けていたことを語るに過ぎない。日本に於ける作家の社会的立場の特異性、貧弱さは・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・原始の人類たちは、彼らのよろこび、悲しみ、勇躍にあたって歌い、踊った。文字はあとから、歌われた歌を記録した。だが、その歌よりもさきに、原始の祖先たちは、狩猟をし、獣の皮をはぎ、火をおこし、女は針に似た道具でその獣の皮や粗布を縫い合わせた。酋・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・こんどこそ生きたいように生きるのだと、勇躍して、じかに生活へとび込む希望と好奇心に満ち溢れて、太平洋を渡ったのであった。 妙な結婚なんぞして、母の絶大な幻滅の前へ二十一歳の私は確信ありげな顔つきで帰って来たのであった。結婚した人と母の気・・・ 宮本百合子 「母」
・・・永遠に現在なる生命はこの道の上にあって勇躍するのである。予はその光景を描き得んことを願う。 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫