・・・ああ よき暴風雨穢れなき動乱。雨よ豊かに降り濺いで長い日でりに乾いた土壤を潤せ。嵐よ仮借なく吹き捲って徒らな瑣事と饒舌に曇った私の頭脳を冷せ。春三月 発芽を待つ草木と二十五歳、運命の隠密な歩調・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・今日の若い良人と妻とは、歴史が私たちにめぐり合わせているこの地球全体の動乱から自分たちの結婚生活が影響されないと思ってはいない。自分たちの愛で自分たちの善意で結合が完うされるものだという素朴な事情で考えてはいない。自分たちの心からなる希願と・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・しかしキュリー夫人はあたりの動乱に断乎として耳をかさず、憂いと堅忍との輝いている独特な灰色の眼で、日光をあびたフランス平野の景色を眺めていた。ボルドーには避難して来た人々があふれていて、キュリー夫人では重くて運びきれない百万フランの価格を持・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・仰々しい見出しで、恐らくは写真までをのせて書き立てた新聞記事によって動乱したらしい外の様子も手にとるように察しられる。 ヤスの生家は×県の富農で、本気なところのある娘だがこういう場合になると、何と云っても真のがんばりはきかない。階級性と・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・景気がふきあれていて、家庭にも朝鮮景気が侵入しているし、新聞雑誌などでも朝鮮の動乱で日本は儲かっていいという話がおおっぴらにされている。全体のそういう火事場泥棒めいた雰囲気のなかで、先生の正直であれという声は、案外にも、だから先生んちはいつ・・・ 宮本百合子 「修身」
二十世紀の後半の第一年―一九五一年がわたしたちの良心の前にひらかれた。昨年の六月二十五日、朝鮮に動乱がひきおこされて以来、日本では世界平和に対する一部の人々の確信がゆらいだ。一九四九年から、南北統一のために努力しつづけてい・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・その希望と、当時の世界的紛糾動乱の間に歴史の進化してゆく必然の水脈を見出してゆく手がかりとして、一般読書人のため、常識の整理のために執筆された。地球の生成からヴェルサイユ会議にまで及ぶその内容は、各専門部門にそれぞれ専門家の知識が動員されて・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・それはどういうことであったかといえば、ドイツの第一次大戦後の社会的動乱期に小市民的な人たちが、あの時のドイツの社会主義を民主的に徹底したものにすることをおそれ拒み、そうかといってもとのままの資本主義にもこりたと迷ってとうとうナチスにひっかか・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・允子は自分を一本の牛乳瓶にたとえ、それが一寸した心の動乱で「ひっくりかえらないようにするためには下に重い金の枠をはめる必要がある。むずかしい学問は、むずかしい職業は、いわば重たい金の枠だ。そういう基礎がおかれてこそ、はじめて瓶は一本立ちが出・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ 極めて特徴的な明治維新のこういう性格は、初期の動乱時代を過ぎるにつれて、支配方針の確立を求めるに当って、保守的な性質を帯びることは当然であった。自由民権の思想は一八八九年憲法が発布されると同時に弾圧を被って、自由党は解散した。憲法発布・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫