・・・我々鈍漢が千言万言列べても要領を尽せない事を緑雨はただ一言で窮処に命中するような警句を吐いた。警句は天才の最も得意とする武器であって、オスカー・ワイルドもメーターランクも人気の半ばは警句の力である。蘇峰も漱石も芥川龍之介も頗る巧妙な警句の製・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・びび数千言と云うとむやみに能弁にしゃべるように聞こえてわるいが、時間から云えば、こんな形容詞でも使わなくってはならなくなるくらい論じていた。その知識の詳密精細なる事はまた格別なもので、向って左のどの辺に誰がいて、その反対の側に誰の席があるな・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・夕立や門脇殿の人だまり夕立や草葉をつかむむら雀 双林寺独吟千句夕立や筆も乾かず一千言 時鳥の句は芭蕉に多かれど、雄壮なるは時鳥声横ふや水の上 芭蕉の一句あるのみ。蕪村の句のうちには時鳥柩をつか・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫