・・・ 父は開墾を委託する時に矢部と取り交わした契約書を、「緊要書類」と朱書きした大きな状袋から取り出して、「この契約書によると、成墾引継ぎのうえは全地積の三分の一をお礼としてあなたのほうに差し上げることになってるのですが……それがここに・・・ 有島武郎 「親子」
・・・直ぐ家へやって来てこんなに大衆的にやられている時に、遺族のものたちをバラ/\にして置いては悪いと云うので、即刻何処かの家を借りて、皆が集まり、お茶でも飲みながらお互いに元気をつけ合ったり、親密な気持を取り交わしたり、これからの連絡や対策や陳・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・テツさんと妻は、お互に貴婦人のようなお辞儀を無言で取り交しただけであった。私は、まのわるい思いがして、なんの符号であろうか客車の横腹へしろいペンキで小さく書かれてあるスハフ 134273 という文字のあたりをこつこつと洋傘の柄でたたいたもの・・・ 太宰治 「列車」
・・・とゴーリキイが取交したあのいかにも生活的な、ユーモアと生活力とに満ちた問答が思い出されるのみならず、後年のゴーリキイが作家として現実に向って行った態度の根本的な面が、既にこの献身的な読者としてのゴーリキイの判断の現実性の裡に強く閃いている。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 四人は黙って杯を取り交わした。杯が一順したとき母が言った。「長十郎や。お前の好きな酒じゃ。少し過してはどうじゃな」「ほんにそうでござりまするな」と言って、長十郎は微笑を含んで、心地よげに杯を重ねた。 しばらくして長十郎が母・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫