・・・さちよは、父のつとめているその女学校に受験して合格した。はじめ、父とふたり、父の実家に寄宿して、毎朝一緒に登校していたのであるが、それでは教育者として、ていさいが悪いのではないか、と父の実家のものが言い出し、弱気の父は、それもそうだ、と一も・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・眼のさめて在る限り、枕頭の商法の教科書を百人一首を読むような、あんなふしをつけて大声で読みわめきつづけている一受験狂に、勉強やめよ、試験全廃だ、と教えてやったら、一瞬ぱっと愁眉をひらいた。うしろ姿のおせん様というあだ名の、セル着たる二十五歳・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・またその試験というのが人工的に無闇に程度を高く捻じり上げたもので、それに手の届くように鞭撻された受験者はやっと数時間だけは持ちこたえていても、後ではすっかり忘れて再び取りかえす事はない。それを忘れてしまえば厄介な記憶の訓練の効果は消えてしま・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
ある入学試験の成績表について数学の点数と語学の点数の相関を調べてみたことがあった。各受験者のこの二学科の点数をXYとして図面にプロットしてみると、もちろん、点はかなり不規則に散布する。しかしだいたいからいえば、やはり X ・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・もっとも成績については何かことのほか不出来のためそんな結果を招いたのか、当時自分にもわからなかったが、いくら三年の時受験したにせよ、失敗してみるとさすがにくやしい、無念である。そこで平生はあまり勉強しなかった自分もいささかかんしゃくを起こし・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・子は初め漢文を修め、そのまさに帝国大学に入ろうとした年、病を得て学業を廃したが、数年の後、明治三十五、六年頃から学生の受験案内や講義録などを出版する書店に雇われ、二十円足らずの給料を得て、十年一日の如く出版物の校正をしていたのである。俳句の・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・本年ぐらいから、統計の上にもはっきり、専門学校を受験する女子学生の層がかわって、新円成金の娘さんがふえて来ています。普通の家庭の娘さんはアルバイトを考えずに、専門学校の生活を考えることは不可能になりました。アルバイトを二つもって医学の勉強を・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・「家事整理の傍ら、受験勉強をなし、再び高等学校の入学試験に応ず。学科試験には優良の成績で及第したが、体格検査の時、風邪をひいていたため、病弱修学に堪えざるものとして不合格となる。体格の再検査を願ったが許されなかった。」 一九〇九年。三度・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫