・・・ たとえば、『少女の友』などに描いていた中原淳一氏の抒情画というものが、この頃は見えなくなった。芸術のこととして、また純正な絵画の美を少女たちの感性に高め導いてゆくためにああいう絵が何かの価値をもっているかと云えば、それは決して積極的な・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・の困難ととりくみながら、家庭の主婦であり、小さい子供の母である早船ちよが、「峠」「二十枠」「糸の流れ」「季節の声」「公僕」など、次々に力作を発表しはじめている。早船ちよは、「峠」の抒情的作風からはやい歩調で成長してきて、取材の範囲をひろめな・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・のようなアメリカ文学としてみれば珍しいリリシズムで貫かれている作品にしろ、フランスの文学にある自然への抒情性とは全くちがったむーっとして遠くひろく際限のない地平線にとりまかれて暮す人間の感覚で書かれている。決して決して日本の季感に通じるリリ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・ ロマンチシズムがある社会的時期に示す危険性というものが人々の注目をひくようになったのは一二年来のことであるが、時局が紛糾したとき、作家らしくない作家的面を露出するのがかえって日頃、いわゆる抒情的な作風で買われている作家であることは・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
「抒情歌」について ――その美の実質―― 二月号の『中央公論』に、川端康成の「抒情歌」という小説がのっている。印刷して二十三ページもあり、はじめから終りまでたるみない作家的緊張で・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・主人公達、少年少女としての朧ろな情感の境地は叙情的に、繊細に美しく描かれていて、独自な味いの作品である。そこに一貫しているものは稚い恋心と下町の情緒、吉原界隈の日常生活中の風情、その現実と夢とを綯い合わせた風情である。「にごりえ」の女主・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・作の世界全体に叙情詩的な気分が行きわたり、不幸や苦しみのなかにもほのぼのとした暖かみが感ぜられる。これは全く独特な光景だと私は思ったのである。 しかし考えてみると、この特徴はすでに『春』や『家』や『新生』などにも現われている。作者はどの・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫