・・・一千年のいにしえの古戦場の威力である。天には雲と雲と戦った。 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・――古戦場を忘れたのが可いのではない。忘れさせたのが雀なのである。 モウパッサンが普仏戦争を題材にした一篇の読みだしは、「巴里は包囲されて飢えつつ悶えている。屋根の上に雀も少くなり、下水の埃も少くなった。」と言うのではなかったか。 ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
一「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日がうちに三十余た・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ソンムとヴェルダンとはヨーロッパ大戦を通じて最も激しい犠牲の多かった北部フランスの古戦場なのである。 ヴェルダン市の市役所のあったところ、大病院のあったところ、学校。それらは今日全くの廃跡である。いくらか残っている石の土台。迫持の柱。静・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
出典:青空文庫