・・・この時代に、イギリスやフランスに、幾人もの婦人作家が擡頭した。十九世紀のイギリス文学では、その名を忘れることの出来ないジョージ・エリオット。ジェーン・オースティン。ブロンテ姉妹。ギャスケル夫人。フランスでは、スタエル夫人をはじめ、日本の読者・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・われわれは、心から植民地における進歩的作家の擡頭をよろこぶものである。 片岡鉄兵氏のある正義感を感じさせる「回顧」が、作者の病気で十分芸術化されなかったのは残念である。原口清という主人公の行動をもっと客観的に、さまざまの具体的モメントに・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 一九一八年以後の日本に民主的文学が擡頭して、文学の社会性について発展的な一歩を示したとき、例えば作家中村武羅夫は、有名であった「花園を荒す者は誰ぞ」という反駁の論文で、熱烈に文学の純芸術性という観念を保守した。ところが、その純芸術性と・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
・・・ 数年前、プロレタリアートの擡頭とともに文学における階級性の問題が提出された頃、インテリゲンチアの苦悩と不安とは今日と全く別様な本質をもっていた。新たな世界観を我ものとして身につけ切れない自身を自覚して、自分の弱さを苦しく思う心持。イン・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・日本はふたたび軍事的・侵略的なあやまちを犯さないために組織されようとしている会の委員に、日本がふたたびあやまちを犯せば自分も犯すであろうといって、明瞭に今日国際間の問題になっている日本の反動勢力の擡頭に呼応する立場をしめしている石川達三氏が・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ 明治四十年代の荷風のデカダニズムはさきにふれたように、正面から日本の歴史的軛に抗議することを断念した性格のものであったし、大正年代に現われた谷崎潤一郎などのネオ・ロマンティシズムの要素も、同時代に擡頭した武者小路実篤のヒューマニズムと等・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ その一つの原因は、婦人作家の擡頭ということにつれて、諸家の見解がのべられているのに、何となく十分現実を掘り下げていない感銘を受けたからでもある。 婦人作家がこの一年に比較的数多い作品を発表もしたのは一般に高まった文学性への要求と婦・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・彼女の誠実を目醒すだけの力が、民衆の生活に擡頭して来たのである。しかしながら、バックの中国に対する認識のつきつめたところには、東は東、西は西という考えがある。中国が東は東として自主的に民族の複雑な課題を処理してゆくべきであり、イギリスやアメ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・今やその隠忍から擡頭せるものは彼らである。勝利の盃盤は特権の簒奪者たる富と男子の掌中から傾いた。しかし吾々は、肉迫せる彼ら二騎手の手から武器を見た。彼らの憎悪と怨恨と反逆とは、征服者の予想を以て雀躍する。軈て自由と平等とはその名の如く美しく・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・ 早雲と同じころに擡頭した越前の朝倉敏景も注目すべき英雄である。朝倉氏はもと斯波氏の部将にすぎなかったが、応仁の乱の際に自立して越前の守護になった。そうして後に織田信長にとっての最大の脅威となるだけの勢力を築き上げたのである。『朝倉敏景・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫