・・・ふたりは同体に父の背に取りつく。「おんちゃんごはんおあがんなさいって」「おはんなさいははははは」 父は両手を回し、大きな背にまたふたりをおんぶして立った。出口がせまいので少しからだを横にようやく通る窮屈さをいっそう興がって、ふた・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・夫婦は一心同体やぜ」 子供にいいきかすような口調だった。「そんならなぜお母はんに高利の金を貸すんです?」 と、豹一が言うと、「わいに文句あるんやったら出て行ってもらおう」 母親もいっしょにと思ったが、豹一はひとりで飛びだ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・この両の情はたとえその内容において彼此相一致するとしても、これを同体同物としては議論の上において混雑を生ずる訳であります。例えばある感覚物を通じて怒と云う情をあらわすとすれば、この作物より得る吾人の情もまた同性質の怒かも知れぬけれども両者同・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・夫婦正しく一身同体、妻の病気には夫の身を苦しめ、夫の恥辱には妻の心を痛ましめ、其感ずる所に些少の相違あることなし。世の男女或は此賭易き道理を知らずして、結婚は唯快楽の一方のみと思い却て苦労の之に伴うを忘れて、是に於てか男子が老妻を捨てゝ妾を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・その相伴うや、相共に親愛し、相共に尊敬し、互いに助け、助けられ、二人あたかも一身同体にして、その間に少しも私の意を挟むべからず。即ち男女居を同じうするための要用にして、これを夫婦の徳義という。もしも然らずして、相互いに疎んじ相互いに怨んでそ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・一身同体という証拠ででもあるのでしょうか。手術はせず、内科的になおしますが、いろいろ面倒くさい。流動物ばかりです。私の位でも苦しいことは相当であったから、あなたはさぞお辛かったでしょう。歩くなどということは実に苦しい。どうかお大切に。私の方・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・世界の人民の解放と民族自立との社会主義達成のために、ソヴェトの生産労働に従う精鋭な前衛と、各国内の前進している労働者とは一身同体だ。まして、ソヴェトの五ヵ年計画の進行と、資本主義国の経済恐慌との開きはますます地球上ただ一つのプロレタリアの国・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫