・・・しかしすでに国家が今日まで我々の敵ではなかった以上、また自然主義という言葉の内容たる思想の中心がどこにあるか解らない状態にある以上、何を標準として我々はしかく軽々しく不徹底呼ばわりをすることができよう。そうしてまたその不徹底が、たとい論者の・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・と姦通呼ばわりをするその婆(ええ、何よりですともさ。それよりか、なおその上に、「お妾でさえこのくらいだ。」と言って私を見せてやります方が、上になお奥さんという、奥行があってようございます。――「奥さんのほかに、私ほどのいろがついています。田・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・が、爰に一つ註釈を加えねばならないのは元来江戸のいわゆる通人間には情事を風流とする伝襲があったので、江戸の通人の女遊びは一概に不品行呼ばわりする事は出来ない。このデカダン興味は江戸の文化の爛熟が産んだので、江戸時代の買妓や蓄妾は必ずしも淫蕩・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・何も同情呼ばわりして逆さに蟇口を振って見せなくても宜かろう、」と、プンプン怒って沼南を罵倒した事があった。 その頃の新聞社はドコも貧乏していた。とりわけ毎日新聞社は最も逼迫して社員の給料が極めて少かった。妻子を抱えているものは勿論だが、・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・であるから坪内君は私の先生ではあるが、多勢の聴講者の中に交ってたッた二、三回しか講義を聞いただけの頗る薄い関係であるし、平生先生呼ばわりをされる事が嫌いな人だから一度も先生といった事はないけれども、たしかに明治二十二年頃の初対面以後今日まで・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・、人物が時代を作るという言葉があるが、かれは明治の時代を作るために幾分の力を奮った男であって、それでついにこの時代の精神に触れず、この時代の空気を呼吸していながら今をののしり昔を誇り、当代の豪傑を小供呼ばわりにしてひそかに快しとしている。自・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・ と叫喚に及びたる次第に御座候。相手は、何かというけげんの間抜けづらにて、ちらと老生を見返り、ふんと笑って屋台の外に出るその背後に浴びせ更にまた一声、老婆待て! と呼ばわり、老生も続いて屋台の外に躍り出申候。屋台の外は、落花紛々。老生の初陣・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・これは当然の事としても、それがためにニュートンを罪人呼ばわりするのはあまりに不公平である。罪人はもっともっとほかにたくさんある。言わばニュートンは真理の殿堂の第一の扉を開いただけで逝いてしまった。彼の被案内者は第一室の壮麗に酔わされてその奥・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ ダーウィンが彼の進化論をまとめ上げて、それが一般に持てはやされた時代には、おそらくダーウィンに対して前述の粘土供給者と同様の怨恨をいだき、ダーウィンを盗賊呼ばわりしたものが三人や五人は必ずあったであろうと想像される。これほど大きな仕事・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 六 昔、ラスキンが人から剽窃呼ばわりをされたのに答えて、独創ということも、結局はありったけの古いものからうまい汁を吸って自分の栄養にしてからの仕事だというような意味のことを言った。 蕪村は「諸流を尽くしこれを一・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
出典:青空文庫