出典:青空文庫
・・・ それで四苦八苦、考えに考えぬいた末が、一人で土地を逃げるという了見になりました、忘れもいたしません、六月十五日の夜、七日の晩から七日目の晩でございます、お幸に一目逢いたいという未練は山々でしたが、ここが大事の場合だと、母の法名を念仏の・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 二人は四苦八苦しながら、子供の要求を叶えてやった。しかし、清吉が病気に罹って、ぶら/\しだしてから、子供の要求もみな/\聞いてやることが出来なくなった。お里は、家計をやりくりして行くのに一層苦しみだした。 暮れになって、呉服屋で誓・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・けれども、西宮が実情ある言葉、平田が四苦八苦の胸の中、その情に迫られてしかたなしに承知はした。承知はしたけれども、心は平田とともに平田の故郷に行くつもりなのである――行ッたつもりなのである。けれども、別離て見れば、一しょに行ッたはずの心にす・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・肥料さえ買えぬ農村の四苦八苦の生活の中から稼ぎ手の若者を奪いとられて、われわれはどうする? 戦争になったからと云って、三百万の失業者は決してなくならぬ。益々労働条件は悪化し、戦争準備の金輸出再禁止で物価は三割がた上り、肥料の価さえ上った・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・流達聰明な先生の完成された老境というようなものと、私の女としての四苦八苦のばたばた暮しとは、我ながらいかにもかけちがった感じだった。 その親にたのまれて一二回作品を見てやったというだけの若年の娘にも、先生はお目にかかるかぎり懇切丁寧で、・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・それをよけようと四苦八苦してバランスをとりそこねている父。遂にころげ落ちた父が、哀れややっと起き直って前方を眺めると、自転車ばかりが非人情にも主人をのこして遙か彼方へ進行している。そういう絵がペンとインクで描いてありました。 子供たち私・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」