・・・ 私は終戦後、新聞の論調の変化を、まるでレヴューを見る如く、面白いと思ったが、しかし、国賊という言葉はさすがの新聞も使わなかった。が、私は「国賊にして国辱」なる多くの人人が「一億総懺悔」という標語のかげにかくれて、やに下っている光景を想・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・律国賊。既成の諸宗はことごとく堕地獄の因縁である」と宣言した。 大衆は愕然とした。師僧も父母も色を失うた。諸宗の信徒たちは憤慨した。中にも念仏信者の地頭東条景信は瞋恚肝に入り、終生とけない怨恨を結んだ。彼は師僧道善房にせまって、日蓮を清・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ ところが駐屯して来た軍隊は、その学校の表門にかけてある看板が、生意気だ、今頃英学塾というような敵性語を教える看板を麗々しくかけておくのは国賊だと、その看板をはずして前の溝川へ投げ込んでしまった。そしてそのあとへ何々部隊と、番号の長い板・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・大人のように世界の事情を考えて日本の実力と照らし合わせ、国民の犠牲を考え、一部の特権者の指導する帝国主義の侵略戦争はまちがっていると考えた者は、国賊として罰せられました。幼な児の如く信じた国民がその結果としておかれた今日の生活の破綻の中から・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・アカという言葉を、戦争中の日本軍事権力は人民を裏切る国賊という意味でつかわせた。そして、侵略戦争に反対する良心の声を抹殺したのであった。その結果は、どうだったろうか。 第二次大戦後、世界が平和運動を最も重大な歴史の課題として、そのた・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・のスローガンを、かりにも批判し分析する者は非国民とされ国賊とされ、赤とされた。そして、治安維持法と戦時特別取締法とが、大きい残虐な口をあいて、それらの人々を噛みくだいた。見せしめとして。人々の理性を、恐怖によって沈黙させるために。むかしの領・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫