・・・別けて申上げまするが、これから立女役がすべて女寅が煩ったという、優しい哀れな声で、ものを言うのでありまするが、春葉君だと名代の良い処を五六枚、上手に使い分けまして、誠に好い都合でありますけれども、私の地声では、ちっとも情が写りますまい。その・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・とお徳が思わず地声の高い調子で言ったので老母は急に「静に、静に、そんな大きな声をして聴れたらどうします。私も彼処を開けさすのは厭じゃッたが開けて了った今急にどうもならん。今急に彼処を塞げば角が立て面白くない。植木屋さんも何時まであんな物・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・佐多稲子の作品をかたるとき、批評は生活派らしい座りかたになり、地声となっているが、論点は作者と読者を肯かせるところまで掘り下げられていなかった。大岡昇平、火野、林などの作家にふれた前半と後半とはばらばらで、きょうの日本とその人民が歴史的にお・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・わたしは、むしろ、人間として女としての壺井栄さんが、ある意味で腹を立て、地声で、自分の言葉と云いまわしで、素直で自然な多くの人々はどう生きるかということについてすぱすぱとものを云いはじめた結果だと思う。さもなければ、「財布」から「大根の葉」・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
出典:青空文庫