・・・ここにその任命を公表すれば、桶屋の子の平松は陸軍少将、巡査の子の田宮は陸軍大尉、小間物屋の子の小栗はただの工兵、堀川保吉は地雷火である。地雷火は悪い役ではない。ただ工兵にさえ出合わなければ、大将をも俘に出来る役である。保吉は勿論得意だった。・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ああ今頃は清軍の地雷火を犬が嗅ぎつけて前足で掘出しているわの、あれ、見さい、軍艦の帆柱へ鷹が留った、めでたいと、何とその戦に支那へ行っておいでなさるお方々の、親子でも奥様でも夢にも解らぬことを手に取るように知っていたという吹聴ではございませ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・それはまるで赤や緑や青や様々の火がはげしく戦争をして、地雷火をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血が流れたり、そうかと思うと水色の焔が玉の全体をパッと占領して、今度はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇やほたる・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
出典:青空文庫