・・・文章も、この伝統を受けついで居るかのように見える。小説家では、里見とん氏。中里介山氏。ともに教訓的なる点に於いて、純日本作家と呼ぶべきである。 日本文学は、たいへん実用的である。文章報国。雨乞いの歌がある。ユウモレスクなるものと遠い・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにその国の行政機関を運転させるには、ただその為政者たるものが誠意誠心で報国の念に燃えているというだけでは充分でないらしく思われる。いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り、仏人、牆に鬩げども外その侮を禦ぎ、一夫も報国の大義を誤るなきは、けだしその大本、脩徳開知独立の文教にあり。今我邦に私塾を立つるも、この趣意を達せんとするなり。その得、五なり。 右所論の得失を概し・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・おおよそ世間の人、この学校を見て感ぜざる者は、報国の心なき人というべきなり。 明治五年申五月六日 京都三条御幸町の旅宿松屋にて福沢諭吉記 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 然れども難きを見てなさざるは丈夫の志にあらず、益あるを知りて興さざるは報国の義なきに似たり。けだしこの学を世におしひろめんには、学校の規律を彼に取り、生徒を教道するを先務とす。よって吾が党の士、相ともに謀りて、私にかの共立学校の制にな・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・吹風の目にこそ見えぬ神々は此天地にかむづまります独楽たのしみは戎夷よろこぶ世の中に皇国忘れぬ人を見るときたのしみは鈴屋大人の後に生れその御諭をうくる思ふ時赤心報国国汚す奴あらばと太刀抜て・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・文学でも、子供の歌まで侵略万能に統一した。情報局の陸海軍人が出版物統制にあたって、自分たちの書いたものを出版させて印税をむさぼりながらすべての平和、自由を窒息させた。文学報国会が大会を陸海軍軍人の演説によって開会し、出席する婦人作家はもんぺ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ばからしい、いかめしい官僚組織になって、文学報国会となった。評論家協会は、言論報国会となった。文学報国会の大会では、軍人が挨拶をし、一九三一、二年代に、文学の純粋性といって、プロレタリア文学に極力抵抗した作家たちが、群をなして軍国主義御用の・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 青少年を護る 青少年工がこの頃の景気の中で、とかく誘惑に負け、その青春を蝕ばまれるのをふせぎ又指導するために、厚生省が産業報国の機関を動員して、優良会員数名ずつを行動隊に組織し、工場地帯、玉の井、亀戸その他の・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・は「文学報国会」となり、作家のある人々は、積極的に報道員となって中国に行った。日本の戦争の侵略的な帝国主義の本質とその戦争遂行のために治安維持法によって全人民に理性的な考え方と発言とを禁じている日本の現実に目をつぶって軍隊とともに中国を歩き・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫