・・・すこぶる精微を極め、文辞また婉宕なり。大いに世の佶屈難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君齢わずかに二十四、五。しかるに学殖の富衍なる、老師宿儒もいまだ及ぶに易からざるところのものあり。まことに畏敬すべきなり。およそ人の文・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・ 今度は虚子が大いに賞めてそれを『ホトトギス』に載せたが、実はそれ一回きりのつもりだったのだ。ところが虚子が面白いから続きを書けというので、だんだん書いて居るうちにあんなに長くなって了った。というような訳だから、私はただ偶然そんなものを・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、他にそれを余儀なくさせるところの、環境的な事情も大いにあったのである。元来こうした性癖の発芽は、子供の時の我がまま育ちにあるのだと思う。僕は比較的良・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ゆえに今政府の事務を概して尋ぬれば、大となく小となく悉皆急ならざるはなしといえども、逐一その事の性質を詳にするときは、必ず大いに急ならざるものあらん。また、学者が新聞紙を読みて政を談ずるも、急といえば急なれども、なおこれよりも急にしてさらに・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・はたしてこの戯言は同氏をして蕪村句集を得せしめ、余らまたこれを借り覧て大いに発明するところありたり。死馬の骨を五百金に買いたる喩も思い出されておかしかりき。これ実に数年前のことなり。しかしてこの談一たび世に伝わるや、俳人としての蕪村は多少の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「とにかく大いに盛んにやらないといかんね。そうでないと笑いものになってしまうだけだ。」「全くだよ。どうだろう、一人前九十円ずつということにしたら。」「うん。それ位ならまあよかろうかな。」「よかろうよ。おや、みんな起きたね、今・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・むしろ意外な苦情を受けた専門家たちは「労銀が多すぎる為に起る弊害について大いに考えさせられた。副業が本業になることを恐れるためである」その問題は、それらの純朴な村の娘たちが一心に精密加工をする作業場を村営とするか、個人に対して多すぎる分は村・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ ついに市長は大いに困ってその筋に上申して指揮を仰ぐのほかなしと告げて席を立った。 この事件のうわさはたちまち広まった。老人が役所を出ずるや、人々はその周囲を取り囲んでおもしろ半分、嘲弄半分、まじめ半分で事の成り行きを尋ねた。しかし・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・心中大いに僕を軽侮しているのだろう。好いじゃないか。君がロアで、僕がブッフォンか。ドイツ語でホオフナルと云うのだ。陛下の倡優を以て遇する所か。」 秀麿は覚えず噴き出した。「僕がそんな侮辱的な考をするものか。」「そんなら頭からけんつく・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・貴夫人 大いに関係していますの。男。どうもちっとも思い当る事がありませんね。貴夫人。それは思い出させてお上げ申しますわ。ですけれど内証のお話でございますよ。男。それは内証のお話と内証でないお話ぐらいはわたくしにだ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫