・・・ことになっているとはいうものの、それは読者の自由な鑑賞を妨げないように、出しゃばった解説はできるだけ避け、おもに井伏さんの作品にまつわる私自身の追憶を記すにとどめるつもりなので、今回もこの巻の「青ヶ島大概記」などを中心にして、昔のことを物語・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・むしろ私は多くの場合にその責任が教師の無能にあるような気がする。大概の教師はいろんな下らない問題を生徒にしかけて時間を空費している。生徒が知らない事を無理に聞いている。本当の疑問のしかけ方は、相手が知っているか、あるいは知り得る事を聞き出す・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 普通の白地に黒インキで印刷した文字もあった。大概やっと一字、せいぜいで二字くらいしか読めない。それを拾って読んでみると例えば「一同」「円」などはいいが「盪」などという妙な文字も現われている。それが何かの意味の深い謎ででもあるような気が・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ しかし自分は子供の時から、毎年の七、八月をば大概何処へも旅行せずに東京で費してしまうのが例であった。第一の理由は東京に生れた自分の身には何処へも行くべき郷里がないからである。第二には、両親は逗子とか箱根とかへ家中のものを連れて行くけれ・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・先方の口から言出させて、大概の見当をつけ、百円と出れば五拾円と叩き伏せてから、先方の様子を見計らって、五円十円と少しずつせり上げ、結局七八拾円のところで折合うのが、まずむかしから世間一般に襲用された手段である。僕もこのつもりで金高を質問した・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・壁に画やら写真やらがある。大概はカーライル夫婦の肖像のようだ。後ろの部屋にカーライルの意匠に成ったという書棚がある。それに書物が沢山詰まっている。むずかしい本がある。下らぬ本がある。古びた本がある。読めそうもない本がある。そのほかにカーライ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・「まあ大概そのくらいさ、家へ帰って飯を食うとそれなり寝てしまう。勉強どころか湯にも碌々這入らないくらいだ」と余は茶碗を畳の上へ置いて、卒業が恨めしいと云う顔をして見せる。 津田君はこの一言に少々同情の念を起したと見えて「なるほど少し・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・「そうは行くまい。大概なことじゃ、なかなか楽になるというわけには行かなかろう。それで、急にまた出京るという目的もないから、お前さんにも無理な相談をしたようなわけなんだ。先日来のようにお前さんが泣いてばかりいちゃア、談話は出来ないし、実に・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・左れば今の女子を教うるに純然たる昔の御殿風を以てす可らざるは言うまでもなきことなれども、幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・の境界にも陥るべきところへ、いやしくも肉体以上の心を養い、不覊独立の景影だにも論ずべき場所として学校の設あれば、その状、恰も暗黒の夜に一点の星を見るがごとく、たとい明を取るに足らざるも、やや以て方向の大概を知るべし。故に今の旧藩地の私立学校・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫