・・・んに持って来させて、御挨拶は沢山……大きな坊やは、こう見えても人見知りをするから、とくるりと権ちゃんに背後を向かせて、手で叩く真似をすると、えへへ、と権ちゃんの引込んだ工合が、印は結ばないが、姉さんの妖術に魅ったようであった。 通り・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 彼はこの頃それが妖術が使えそうになる気持だと思うことがあった。それはこんな妖術であった。 子供の時、弟と一緒に寝たりなどすると、彼はよくうつっ伏せになって両手で墻を作りながら「芳雄君。この中に牛が見えるぜ」と言いながら弟をだま・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・先ず魔法、それから妖術、幻術、げほう、狐つかい、飯綱の法、荼吉尼の法、忍術、合気の術、キリシタンバテレンの法、口寄せ、識神をつかう。大概はこれらである。 これらの中、キリシタンの法は、少しは奇異を見せたものかも知らぬが、今からいえば理解・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・語る人々もいつの間にやら、幸福の二字が身のまわりにもち来っている観念の妖術にかかってしまうことが多い。第三者は、それらの検討や分析やらを見て、ああ何と熱心にいじられている事だろう! けれども、ここに幸福の輝きは溢れていないと、更に一層ゆくえ・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
出典:青空文庫