・・・後に母の母が同棲するようになってからは、その感化によって浄土真宗に入って信仰が定まると、外貌が一変して我意のない思い切りのいい、平静な生活を始めるようになった。そして癲癇のような烈しい発作は現われなくなった。もし母が昔の女の道徳に囚れないで・・・ 有島武郎 「私の父と母」
一 島田沼南は大政治家として葬られた。清廉潔白百年稀に見る君子人として世を挙げて哀悼された。棺を蓋うて定まる批評は燦爛たる勲章よりもヨリ以上に沼南の一生の政治的功績を顕揚するに足るものがあった。 沼南には最近十四、五年間会っ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを例とし、それから後は公々然と音信し往来するを許された。女流の英文学者として一時盛名を馳せたI夫人は在学中二度も三度も婚約の紹介を繰返したので評判であった。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・国の興ると亡ぶるとはこのときに定まるのであります。どんな国にもときには暗黒が臨みます。そのとき、これに打ち勝つことのできる民が、その民が永久に栄ゆるのであります。あたかも疾病の襲うところとなりて人の健康がわかると同然であります。平常のときに・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・Rのつけた雑誌の名前を繰り返し繰り返し喜び、それと定まるまでの苦心を滑稽化して笑いました。私の興味深く感じるのはその名前によって表現を得た私達の精神が、今度はその名前から再び鼓舞され整理されてくるということです。 私達はAの国から送って・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 場所のおのずから定まる傾向については、自分は何事も具体的のことをいうだけの材料を持ち合わせないが、これも調べてみたら、おそらく放電現象の多い場所と符合するようなことがありはしないかと想像される。 しかしこの仮説にとって重大な試金石・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・そしてその観察と分析とその結果の表現のしかたによってその作品の芸術としての価値が定まるのではあるまいか。 ある人は科学をもって現実に即したものと考え、芸術の大部分は想像あるいは理想に関したものと考えるかもしれないが、この区別はあまり明白・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ こんな工合であるから論文の価値は結局少しも絶対的なものでなく、全く相対的に審査員の如何によって定まる性質のものである。尤も中にはほとんど如何なる審査員にも採用されるもの、また反対にどこへ出してもきっと落第させられるというものも偶にはあ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・の生成は皺襞と対立さるべきものでやはり一種の不安定によって定まるものであろうが、このほうの研究はまだきわめて進捗していない。理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これは結局経験によって定まるものにして、原因の分析という事自身が既に経験的方則の存在を予想する事は明らかなり。物理的科学発展の歴史に溯れば、到る処かくのごとき方則の予想によって原因の分析、すなわち最も便宜なる独立変数の析出に勉めたる痕跡を見・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
出典:青空文庫