・・・ さてその智恵の無い談話の題目は「曲亭馬琴の小説とその当時の実社会」というのでございます。題の付けようが少し拙いか知れませんが、私の申し上げてみようというのは、その当時、即ち馬琴が生存して居た時代との関係が、どんな工合であろうかという点・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・私は、ばかのように見えながら、実社会においては、なかなかのやり手なんだそうです。お手紙くだされば、私の力で出来る範囲内でベストをつくします。貴方は、もっともっと才能を誇ってよろし。芝区赤羽町一番地、白石生。太宰治大先生。或る種の実感を以って・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 歌から見た宇都野さんはどう見ても世を捨てた歌よみ専門の歌人でなくて、この実社会に立ち働いて戦っている人のように見える。そして負けじ魂と強い腕の力で波風をしのいでいる人のように見える。強い人にも嘆き悲しみ悶えはある。しかしそれは弱いもの・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・で、社会主義ということは、実社会に対する態度をいうのだが、同時にまた、一方において、人生に対する態度、乃至は人間の運命とか何とか彼とかいう哲学的趣味も起って来た。が、最初の頃は純粋に哲学的では無かった……寧ろ文明批評とでもいうようなもので、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から離れたありようをしていたからであることが、指されると思う。 この年は佐佐木信綱博士の万葉集校訂の大事業が完成して注目をひいたが、従来、国文学者は不思議にも日本の国文学として今日の文学作品ま・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫