・・・ あの、底知れずの水に浮いた御幣は、やがて壇に登るべき立女形に対して目触りだ、と逸早く取退けさせ、樹立さしいでて蔭ある水に、例の鷁首の船を泛べて、半ば紫の幕を絞った裡には、鎌倉殿をはじめ、客分として、県の顕官、勲位の人々が、杯を置いて籠・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ ――来た途中の俄盲目は、これである―― やがて、近江屋の座敷では、小春を客分に扱って、膳を並べて、教授が懇に説いたのであった。「……ほんとに私、死なないでも大事ございませんわね。」「死んで堪るものか、死ぬ方が間違ってる・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 労働者・農民からの新しい文学の働きてがどしどし送りこまれること、既成の作家が、客分としてではなく日常活動において企業内サークルと結合することによってこそ、文学におけるプロレタリアートのヘゲモニー・党派性は確立され、組織内における小市民・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・これは遠い親戚に当るので、奉公人やら客分やら分からぬ待遇を受けて、万事の手伝をしたのである。次に赤坂の堀と云う家の奥に、大小母が勤めていたので、そこへ手伝に往った。次に麻布の或る家に奉公した。次に本郷弓町の寄合衆本多帯刀の家来に、遠い親戚が・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫