・・・上の姉さんが君に、家宝のモオニングを貸して下さるそうだ。」 家宝の意味が、大隅君にも、すぐわかったようである。「あ、そう。」とれいの鷹揚ぶった態度で首肯いたが、さすがに、感佩したものがあった様子であった。「下の姉さんは、貸さなか・・・ 太宰治 「佳日」
・・・駅前の町には「螢五家宝」というお菓子を売る店が並んでいる。この「五家宝」という名前を見ると私の頭の中へは、いつでも埼玉県の地図が広げられる。そうしてあのねちねちした豆の香をかぐような思いがする。 ある町の角をまがって左側に蝋細工の皮膚病・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・じゃ、いただいといて家宝にでも致しましょう」 真面目腐って立ち上ったが、座敷を出ながら、「でも本当に可愛いんですね、しまっときますよ」 ただ虫が喰っただけだとは思ったが、由子はそのまま黙っていた。 その紫の小さい前掛に特別な・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
出典:青空文庫