・・・ ある洋服屋の娘さんの書いた文章には、まだ年期の切れない弟子の一人が出征したので、その留守の間は娘さんも家業を手つだっていたところその弟子が無事帰還した。まずこれでよいと一安心する間もなく、その弟子が年期をそのまま東京へ出てしまった。そ・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・ もう、一生彼の人には会う機会も、便りをやる所もなくなってしまった様な気がして、彼あ云う家業が家業だけに余計思い患われる。 そんな事を思いながら、本を読んで居たけれ共、何にも気が入らないので、何だか落つかないいやな空合を窓からぼんや・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・変りものの、役に立たない小僧として扱われ苦痛から翌年逃げ出して家にかえり、学校へ入りたいと云ったところ、父親は、学問なんぞさせると生意気になると云って許さず、家業の手伝いをさせられた。 当時の士族あがりの父親たち一般のものの考えかたと比・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ とばかりやるし、本はろくなのがよめず、家業は忘れる。あとにのこって苦労するのはあなたのように、多くの場合女です。これもブルジョア社会のつらさです。 働くものの国ソヴェト同盟では、こういうことで苦しむ女はなくなりました。国全体が働く者に・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫