・・・すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であるとしていることである。 それが明白なる誤謬、むしろ明白なる虚偽であることは、ここに詳しく述べるまでもない。我々日本の青・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・語らぬ恋の力が老死に至るまで一貫しているのは言わずもあれ、かれを師とするもののうちには、師の発展のはかばかしくないのをまどろッこしく思って、その対抗者の方へ裏切りしたものもあれば、また、師の人物が大き過ぎて、悪魔か聖者か分らないため、迷いに・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・これに対抗する里見勢もまた相当の数だろうが、ドダイ安房から墨田河原近くの戦線までかなりな道程をいつドウいう風に引牽して来たのやらそれからして一行も書いてない。水軍の策戦は『三国志』の赤壁をソックリそのままに踏襲したので、里見の天海たる丶大や・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・向い側の果物屋は、店の半分が氷店になっているのが強味で氷かけ西瓜で客を呼んだから、自然、蝶子たちは、切身の厚さで対抗しなければならなかった。が、言われなくても種吉の切り方は、すこぶる気前がよかった。一個八十銭の西瓜で十銭の切身何個と胸算用し・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・彼は虚無に対抗している。重圧する畏怖の下に、黙々と憐れな人間の意図を衛っている。 一番はしの家はよそから流れて来た浄瑠璃語りの家である。宵のうちはその障子に人影が写り「デデンデン」という三味線の撥音と下手な嗚咽の歌が聞こえて来る。 ・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・この先生の言としては怪むに足らない、もし理窟を言って対抗する積りなら初めからこの家に出入をしないのである。と彼は思い返した。「エ、それともどうしても娘が欲しいと言うのか、コラ!」 校長は一語を発しない。「判然と言え! どうしても・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・銃や、機関銃や、大砲に対抗するのに、弓や竹槍や、つぶてではかなわない、プロレタリアは、ブルジョアに負けない優秀な武器を自分のものとしなければならない。レーニンは次のように云っている。「武器を取扱い武器を所有することを学ぼうと努力しない被抑圧・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 資本主義がすさまじい勢力を以て発展して、国際的威力として、プロレタリア階級に迫ってきた時、労働者階級の中から、吾々自身のインタナショナル的な組織体を作って、資本主義に対抗しようとした。それが、国際的労働者団結である。 プロレタリア・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ それは、維新後の当初に於ては、おくれて発達した資本主義国として、既に帝国主義的段階への過渡期に入りつゝあった世界資本主義に対抗するため軍備の力が必要だった。しかし、その軍事的性質は、国民的解放の意義が失われ過ぎ去った後までも存続し、日・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・(この頃、ジャズ文学というのがあって、これと対抗していたが、これはまた眼がしらが熱くなるどころか、チンプンカンプンであった。可笑 結局私は、生家をあざむき、つまり「戦略」を用いて、お金やら着物やらいろいろのものを送らせて、之を同志とわけ・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
出典:青空文庫