・・・せた小男で、学問も何も無くて、そのくせ豪放絢爛たる建築美術を興して桃山時代の栄華を現出させた人だが、一方はかなり裕福の家から出て、かっぷくも堂々たる美丈夫で、学問も充分、そのひとが草の庵のわびの世界で対抗したのだから面白いのだよ。」「で・・・ 太宰治 「庭」
・・・そしてそこで始めて、多数の公開観覧所が卑猥なものやあくどい際物で堕落し切っているのに対して、道徳的なものをもって対抗させる機会を得るだろう。教授用フィルムに簡単な幻燈でも併用すれば、従来はただ言葉の記載で長たらしくやっている地理学などの教授・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そしてそれらに対抗して自分の赤裸々の本性を出そうとする際に、従来同君の多く手にかけて来た図案の筆法がややもすれば首を出したくなる。それをも強いて振り落して全く新しい天地を見出そうと勉めているのである。その努力の効果は決して仇でない事は最近の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・すべての楽器はただ一色の雑音の塊になって、表を走る電車の響きと対抗しているばかりである。でも曲の体裁を知るためと思って我慢して聞いていると、店員が何かぐあいでも直すためか、プラグを勝手に抜いたりまたさしたりするのでせっかくのシンフォニーは無・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・しかしその時には自分を始め誰一人霊廟を訪おうというものはなく、桜餅に渋茶を啜りながらの会話は如何にすれば、紅葉派全盛の文壇に対抗することが出来るだろうか。最少し具体的にいえばどうしたら『新小説』と『文芸倶楽部』の編輯者がわれわれの原稿を買う・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・その人たちは、市民的自由、学問と言論と思想の自由をファシズムから守るためにはあえて支配権力の政治に対抗する政治力を発揮しました。これは大学法案反対の場合にも見られたことです。自由を守り、ファシズムと奴隷教育に反対する意志の表現は、誰にとって・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織されたか、どんな人間が、どんなやり方で――うすのろの羊飼ワーシカさえどんな熱情で耕作用トラクターを動かそうとしたか、そこには集団農場を支持するかせぬかから夫婦わかれもあ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・何故ならイギリスは彼らに対抗する最後の防波堤だからだ」と。フランスやドイツの人民は、今日の壊滅におちいった心理的な原因として、二つの国の間にある、伝統的なさまざまの偏見を、戦争商売人に利用されたのだった。日本の人民が明治二十七八年の戦争以来・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・個々の作家の才能だけきりはなしてどんなに評価しても、全般にこうむる文化暴圧に対抗するにはなんの力でもなかったことを、まず学んだ。それにつけても、文筆の活動で生計を立ててゆかなければならない私たちの必要は、食うためにはそれもしかたがない、とい・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ なるほど、ブルジョア文化も封建時代の文化に対抗して自然科学の力を正面に押し出して闘った初期においては、確かに進歩的な大きな役割を持っていた。封建時代よりは、より広汎な大衆の利害を代表するものとして役立った。然し貴族と僧侶に反抗したブル・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫