・・・でも随分けちくさかったが、たかだか二円のことじゃありませんか、と妙に見当はずれた、しかし痛いことを言い、そして、あんたは軽部さんのことそんな風に言うけれど、私はなんだか素直な、初心な人だと思うよ、変に小才の利いた、きびきびした人の所へお嫁に・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・と一杯一呼吸に飲み干して校長に差し、「それも彼奴等の癖だからまア可えわ、辛棒出来んのは高山や長谷川の奴らの様子だ、オイ細川、彼等全然でだめだぞ、大津と同じことだぞ、生意気で猪小才で高慢な顔をして、小官吏になればああも増長されるものかと乃・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・いわんや私たち小才は、ぶん殴られて喜んでいたのじゃ、制作も何も消えて無くなる。 不平は大いに言うがいい。敵には容赦をしてはならぬ。ジイドもちゃんと言っている。「闘争に生き、」と抜からず、ちゃんと言っている。敵は? ああ、それはラジオじゃ・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・自分の小才を押えて仕事をするのは苦しいもんであると僕は思う。事実とても苦しかった。』先夜ひそかに如上の文章を読みかえしてみて、おのが思念の風貌、十春秋、ほとんど変っていないことを知るに及んで呆然たり、いや、いや、十春秋一日の如く変らぬわが眉・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ただの学者、政治家と思われている人でも、いざという時には、非凡な武技を発揮した。小才だけでは、どうにもならぬ。武術の達人には落ちつきがある。この落ちつきがなければ、男子はどんな仕事もやり了せる事が出来ない。伊藤博文だって、ただの才子じゃない・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・だから、戦時中は小才のきく部隊長のような藤吉郎が清洲築城に活躍しても、よむ人は、逆に、やっぱり秀吉ほどの人物は、と、自分たちが非人間に扱われている現状に屈する方便に役立ってゆくのである。吉川英治は、青苔のついた封建の溝をつたわっている。こん・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ことに雑誌なんかの上で大人が一二度小才のきいた文章が出してあるとすぐ「前途多望の天才」とかなんとか云う尊称がたてまつられる。そんな人にかぎってその投書の一年とつづいた事がなく、その次からの文がきっと前よりも劣って居る。「天才のねうちが下った・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫