・・・にして、古人も今人もさまで感情の変るべきにあらぬに、まして短歌のごとく短くして、複雑なる主観的歌想を現すあたわず、ただ簡単なる想をのみ主とするものは、観察の精細ならざりし古代も観察の精細に赴きし後世も差異はなはだ少きがごとし。ただ時代時代の・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・最後に為山君が日本画の丸い波は海の波でないという事を説明し、次に日本画の横顔と西洋画の横顔とを並べ画いてその差違を説明せられた。さすがに強情な僕も全く素人であるだけにこの実地論を聞いて半ば驚き半ば感心した。殊に日本画の横顔には正面から見たよ・・・ 正岡子規 「画」
・・・従って、箇性の差異に連れて起る箇々の生活内容及び様式の相異を理解し、その価値を正当に批判すべきことは、もう公理なのだとも思われる。一方から云えば、解り切った事だと云えるだろう。けれども、自分は、そう雑作なく解り切った事だとは、自分に対して云・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 自分に生活の、愛の確信があり、自分と彼女との性格的差異を熟知して居るばかりで、私は辛うじて今の心持を支えて居る。 支えて居なければならない必要が、果してあるのだろうか。 ○ 高い、堅い二つの絶壁の間・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・ 人間にも、顔の異るように性格の差異がある。小鳥も羽色の異う以上それの無いことはないであろう。あるものと仮定して、私の観察は意味を生ずる。 人間の日常生活が、男といい、女という性の異いに有形無形、どれほどの影響を受けているか、やかま・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・の多数がその生活態度と文学との上に拠りどころを失って、批判の欠けた文学をつくり出し、所謂文壇の拍手の高低によって心持を左右されることの少くないようなのに対して、一般民衆の裡にあるプロレタリア文学の質的差異に関する判断は、素朴ながら或る意味で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・従って民族間の文化の差違というものは、交通の発達その他科学力の発達につれて、非常に速く動くものであり、絶対の相違ということはいい得ない。われわれの日常生活における実際の例をとってみても分るように、今日われわれにとってアメリカと日本との文化の・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・のみならず、婦人に向っても、何等の差異なしに開かれて居る生活の道程は、我国の婦人の強いられる極端な謙遜も卑屈さも味わせません。 彼等は、仕たい勉強が出来、生きたい形式で生き、愛すべき者を愛す権利を持って居ります。 此の生きたい形式で・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 芸術家の個性により、微妙な色と角度との差異はあっても等しく内に、何等かの調和律を持たないものは無かろう。真心を以て芸術に参するものは、自己に許された範囲に於て、最大・最高の諧調を見出したいという祈願を、片時も捨てかねるものと思う。然し・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫