・・・るの時に当り、彼等が割合に内部の腐敗を伝えなかったのは、思うに将軍家を始めとして大名小名は勿論苟も相当の身分あるもの挙げて、茶事に遊ぶの風を奨励されたのが、大なる原因をなしたに相違ない、勿論それに伴う弊害もあったろうけれど、所謂侍なるものが・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ 今時の弊害は何であるかといいますれば、なるほど金がない、われわれの国に事業が少い、良い本がない、それは確かです。しかしながら日本人お互いに今要するものは何であるか。本が足りないのでしょうか、金がないのでしょうか、あるいは事業が不足なの・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・それに気質の合わないことが次第によくわかって来た兄妹をこんな狭い巣のようなところに無理に一緒に置くことの弊害をも考えた。何も試みだ、とそう考えた。私は三郎ぐらいの年ごろに小さな生活を始めようとした自分の若かった日のことを思い出して現に私から・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ 案内人として権威の価値は明らかであるが、同時に案内人の弊害もある事は割合に考える人が少ない。 通りすがりの旅人が金閣寺を見物しようとするには案内の小僧は甚だ重宝なものであるが、本当に自分の眼で充分に見物しようとするには甚だ不都合な・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ 学位売買事件や学位濫授問題が新聞雑誌の商売の種にされて持て囃されることの結果が色々あるうちで、一番日本のために憂慮すべき弊害と思われることは、この声の脅威によって「学位授与恐怖病」の発生を見るに到りはしないかという心配の種が芽を出すこ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・どんなに弊害があっても、人の心の奥にまで食い込む心配は少ない。 これに反してもっとまじめで真剣なだけにいちばん罪の深い人間的な宣伝の場合と思われるのは、避くべからざる覊絆によって結ばれた集団の内部で、暗黙のうちに行なわれる、朋党の争いで・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ それはいずれにしても、武士道というものに対しても西鶴が独自の見解をもっていて、その不合理と矛盾から起る弊害を指摘する心持があったであろうという想像は、マテリアリストとしての彼の全体から判断し推測してそれほど無稽なものではないと思われる・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ ジャーナリズムのあらゆる長所と便益とを保存してしかもその短所と弊害を除去する方法として考えられる一つの可能性は、少なくも主要な新聞を私人経営になる営利的団体の手から離して、国民全体を代表する公共機関の手に移すということである。それが急・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・多少の弊害もあるかもしれないが、観客に人間の本性に関する「真」の一面の把握を教えるものとしてはおそらく絶好な題目の一つとなるであろう。こういう種類のテーマでまだ従来取り扱われなかったものを捜せばいくらでも見つかりそうな気がする。近ごろ見たニ・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・を喜ばすだけであって、ほんとうの科学者を培養するものとしては、どれだけの効果がはたしてその弊害を償いうるか問題である。特にそれが科学者としての体験を持たないほんとうのジャーナリストの手によって行なわれる場合にはなおさらの考えものである。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
出典:青空文庫