あるきわめて蒸し暑い日の夕方であった。神田を散歩した後に須田町で電車を待ち合わせながら、見るともなくあの広瀬中佐の銅像を見上げていた時に、不意に、どこからともなく私の頭の中へ「宣伝」という文字が浮き上がって来た。 それ・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ 十時過ぎの汽車で帰京しようとして沓掛駅で待ち合わせていたら、今浅間からおりて来たらしい学生をつかまえて駅員が爆発当時の模様を聞き取っていた。爆発当時その学生はもう小浅間のふもとまでおりていたからなんのことはなかったそうである。その時別・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
一 一月中旬のある日の四時過ぎに新宿の某地下食堂待合室の大きな皮張りの長椅子の片すみに陥没して、あとから来るはずの友人を待ち合わせていると、つい頭の上近くの天井の一角からラジオ・アナウンサーの特有な癖のある雄弁が流れ出していた。・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・例えば走者第一基にあり、これより第二基に到らんとするには投者が球を取て本基(の打者に向って投ずるその瞬間を待ち合せ球手を離るると見る時走り出すなり。この時攫者はその球を取るやいなや直ちに第二基に向って投ずべく第二基人はその球を取りて走者に触・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・翌日は、時間を繰り合わせて、内を見せて呉れる家主の細君を待ち合わせた。 自分は、貴方の鑑定に信頼するから、どうぞ襖だけは気をつけて下さいと頼んだ。 自分にとって、あの赧黄色い地に、黒でこまこまと唐草の描いてある唐紙ほど、いやなものは・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫