・・・『あなた、御寒う御座いますから、失礼ですが、其御子に掛けてあげて下さい。』 貴婦人は見事な肩掛を、赤さんへお掛けなすって、急いで出口の方へ行ってお了いでした。其御様子が何様にお美しく見上げられたでしょう。『僞善よ。ほほ。』と、ま・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・女帝から皇女、その他宮廷婦人をはじめ、東北の山から京へ上った防人とその母親や妻の歌。同時に遊女、乞食、そういう人までが詠んだ歌を、歌として面白ければ万葉集は偏見なく集めている。日本の古典の中に万葉集ほど人民的な歌集はなかった。万葉集以前の古・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 十六、七日。皇子と乞食。 十九――二十一日。アンクル・トムの小舎。 観衆の年齢に応じて、脚本の内容はだんだん複雑になって来ている。それより日本女を羨ましがらせたのは、その下の「五月二十九日からの切符配分」という表だ。レーニング・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・天皇はあらひと神ではなくて、人間の男であり、皇后、皇太子、皇女たちは、その妻や子息、息女であることがわからされた。 人々は、人間である天皇、人間である三笠宮に親愛感をもつことに馴れて来た。皇太子が、唯一の御馳走は、カレーライスだと思って・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・回答者の、ポスター・バリューのある似顔が程よく入れられていて、川路龍子、獅子文六、小野佐世男その他にまじって三笠宮崇仁親王という公式の名で、回答がのせられている。の答えは、小学四年生のとき母に愛のこころをこめて送った書簡が最初のラヴ・レター・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・がうまかろとむぎわらざいくのそのような青いせなもつ火取虫ガスのまわりをブンブンと羽根のたっしゃをほこるよう小供がうちわでおっかけた小さい火取は斯う云った「何んて云うおなまな御子だろう貴方に羽根はありますか・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ くつろいだ様子をして絵巻物を見て居た光君は、はばかるようにおもはゆげに誰にともなく云うと、わきに居た髪の美くしい年まがうけとって、「エエ、そうでございます、大奥様の御妹子の御子で御両親に御分れなさってからこちらに御出になって居るん・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・第二の女 法王様は神の御子だと聞いた事がございますわ。それで人なみ以上の御力をお持ちだと――若しお二人の間にお争いでも起ったら悲しい事だけれ共勝は法王様にお譲りなさらなければならないでございましょうよきっと――第三の女 この立派な御・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・この時佐橋甚五郎は若武者仲間の水野藤十郎勝成といっしょに若御子で働いて手を負った。年の暮れに軍功のあった侍に加増があって、甚五郎もその数に漏れなんだが、藤十郎と甚五郎との二人には賞美のことばがなかった。 天正十一年になって、遠からず小田・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ 今年の暮には、西丸にいた大納言家慶と有栖川職仁親王の女楽宮との婚儀などがあったので、頂戴物をする人数が例年よりも多かったが、宮重の隠居所の婆あさんに銀十枚を下さったのだけは、異数として世間に評判せられた。 これがために宮重の隠居所・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫