・・・「ある時石川郡市川村の青田へ丹頂の鶴群れ下れるよし、御鳥見役より御鷹部屋へ御注進になり、若年寄より直接言上に及びければ、上様には御満悦に思召され、翌朝卯の刻御供揃い相済み、市川村へ御成りあり。鷹には公儀より御拝領の富士司の大逸物を始め、・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・ そして又、それは、最も幸福に御成りなさる道でございます。第二の若僧 お師様。 ほんとうの御心で仰せられるのでございますか? 私などは、死ぬ事より恐ろしい悲しい事は無いと存じます。 あの暗くてじめじめした塚穴に入れられる・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 然るところ去承応二年六丸殿は未だ十一歳におわしながら、越中守に御成り遊ばされ、御名告も綱利と賜わり、上様の御覚目出たき由消息有之、かげながら雀躍候事に候。 最早某が心に懸かり候事毫末も無之、ただただ老病にて相果て候が残念に有之、今・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫