・・・人は一瞬にして氷雲の上に飛躍し大循環の風を従えて北に旅することもあれば、赤い花杯の下を行く蟻と語ることもできる。罪や、かなしみでさえそこでは聖くきれいにかがやいている。深い椈の森や、風や影、肉之草や、不思議な都会、ベーリング市まで続・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・消化吸収排泄循環生殖と斯う云うことをやる器械です。死ぬのが恐いとか明日病気になって困るとか誰それと絶交しようとかそんな面倒なことを考えては居りません。動物の神経だなんというものはただ本能と衝動のためにあるです。神経なんというのはほんの少しし・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・闇の循環で、細々生きているような生命の扱いかたをどんな婦人がよろこばしいと思うだろう。 婦人の道徳の頽廃が歎かれている。しかし、これとても、一方では、食物につながった社会問題なのである。婦人の労働問題の合理的な解決が必要である一方に、食・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・に没頭したのであったが、三ヵ月にあまるこの仕事への没頭――調べたり、ノートしたり、書いたりしてゆく過程で循環してつきない自家中毒をおこしていた精神活動の上に知らず知らず、やや健全な客観の習慣をとりもどすことが出来たのであった。翌年の秋から「・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・貧乏のために娘を吉原に売るよりはまだ女工の方が人間なみの扱いと思って紡績工場に娘をやって、その娘は若い命を減しながら織った物が、まわりまわってその人たちの親の財布から乏しい現金をひき出してゆくという循環がはじまった。日本の農村生活は封建と資・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・あっちは一時間半ぐらいで循環する。私のよく行ったところは小さい映画館だもので、下の食糧品店は夜になるとすっかり暗く閉っている。わきの方にチラチラとイルミネーションのついた看板が淋しく一二枚出ている狭い入口があって、そこから階段をあがって行く・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・て随分ウカウカと日を暮らしてる人が多いのですから…… 女性にとって男性は或る場合は夫であり、またパアトナアであり、また友人であったりしますが、現在ではそれぞれの位置は機械と同じことで同じ生活の循環をやっているのです。古いものが棄てら・・・ 宮本百合子 「男が斯うだから女も……は間違い」
・・・ 太古のエジプトでは、僧侶が人の病をいやす役目もはたしていたという文明の発端から、人類の医療の父として語られるヒポクラテスの話におよびさらに、ウィリアム・ハーヴェーの血液循環の発見があり、やがてパストゥールによって細菌が発見されたのも、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・幸福や幸運というものがいかにもぼんやり遠くにあって、今日の現実とは反対のものとして心に描かれているような社会の条件のなかでこそ、幸運の手紙はその循環を全うし得るのではなかろうか。 地球を七巻き巻くとかいう云いかたも執念めいた響きを添える・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・そして、これは決して、文学の専門的な何かを前提とするものではなくて、作家と作品の間にある血液循環、細胞関係の必然の結果であり、人間的な総括的な直感である。この事実は日頃あらゆる人々の経験しているところであると思う。 かの子さんの小説は、・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
出典:青空文庫